個人事業主・小規模法人の電子帳簿保存法 最小対応マニュアル
売上5,000万円以下の事業者は、検索要件が完全に免除されます。事務処理規程の整備と普通の保存だけで対応できる、最小工数の実装手順をまとめました。
電子帳簿保存法(電帳法)の対応は、事業規模によって負担が大きく変わります。本記事は、診断記事のパターン B に該当する 売上 5,000 万円以下の個人事業主・小規模法人 向けに、最小工数の実装手順をまとめたものです。
まだ診断していない方は、先に 電子帳簿保存法、結局あなたは何をすればいい?4 問診断 をご覧ください。
結論を先に:やることは 2 つだけ
売上 5,000 万円以下の事業者は、電帳法の検索要件が完全に免除されます。実質的にやるべきことは 2 つです。
- 事務処理規程を作って備え付ける(国税庁サンプルをコピペで対応可)
- 電子で受け取ったデータを電子のまま保存する(Google Drive など普通のフォルダで可)
これだけで電帳法上の要件を満たせます。タイムスタンプも検索ソフトもスキャナ保存も、原則として不要です。以下、なぜそうなるのか、具体的な手順、ありがちな誤解の順に解説します。
「売上 5,000 万円以下」の判定方法
基準期間の売上高とは
電帳法でいう「基準期間」は次の通りです。
- 個人事業主:前々年(暦年)の売上高
- 法人:前々事業年度の売上高
例えば 2026 年中の電帳法対応を判定するなら、個人事業主は 2024 年(暦年)、法人は 2024 年に終了した事業年度の売上高で判定します。
売上の範囲
ここでいう売上は、損益計算書の売上高(本業の売上)のみ で判定します。
- 含める:商品売上、サービス収入など本業の売上
- 含めない:受取利息、雑収入、特別利益、不動産売却益など
消費税の課税売上高とは異なる概念なので、混同しないよう注意してください。
開業 3 年未満の特例
法人なら基準期間(前々事業年度)が存在しないため、自動的に「免除側」に該当します。個人事業主も開業初年・2 年目は同様です。新規開業から 3 年目に入るまでは、売上規模に関わらず最も負担の軽いパターンで運用できます。
なぜ小規模はラクなのか:検索要件の完全免除
電帳法の電子取引データ保存には、本来 3 つの検索要件があります。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| ①基本 | 取引年月日・金額・取引先で検索できる |
| ②範囲指定 | 日付・金額の範囲指定で絞り込める |
| ③組合せ | 2 項目以上を組み合わせて検索できる |
通常はこれらを満たすため、ファイル名を命名規則化したり、Excel で索引簿を作ったり、専用ソフトを導入したりする必要があります。
しかし 売上 5,000 万円以下の事業者は、これら 3 要件がすべて免除されます。条件は税務調査時に「ダウンロードの求めに応じる」ことだけ。要するに、調査官にデータを渡せれば OK です。
これは恒久的な制度であり、特別な届出も不要です。基準期間の売上高で自動的に判定されます。
5 ステップ実装ガイド
Step 1:事務処理規程を備え付ける
電帳法の真実性確保(改ざん防止)の要件は、以下のいずれかで満たします。
- タイムスタンプを付与する
- 訂正削除履歴が残るシステムを使う
- 訂正削除を防止する事務処理規程を整備する ← これが最楽
3 つ目の規程整備が圧倒的に楽で、コストもゼロです。国税庁が公式サンプルを Word ファイルで公開しています。
このページに個人事業主用と法人用の 2 種類があるので、自分の形態に合わせてダウンロードします。A4 で 1〜2 ページの短い規程です。社名・代表者名・施行日を記入して社内に備え付ければ完了します。
Step 2:電子取引データの保存先を決める
メール・Web で受け取った請求書 PDF、領収書データ、Web 明細などをどこに保存するか決めます。
選択肢 A:Google Drive・Dropbox など汎用クラウドストレージ
最もシンプルで安価。年単位・月単位のフォルダに保存するだけで OK です。検索要件免除なので、ファイル名規則も索引簿も不要です。
例:「電子取引データ/2026 年/05 月」のように、年・月のフォルダを作って受領した PDF を放り込むだけで運用できます。
選択肢 B:クラウド会計の証憑保存機能
マネーフォワードクラウド Box、freee ファイルボックスなど。会計ソフト内で完結し、仕訳との紐付けも自動。既にクラウド会計を使っているなら自然な選択です。
選択肢 C:Notion・専用ストレージ
データベース機能で構造化したい場合は Notion なども候補です。ただし税務上必要な保存期間(7〜10 年)を考えて、サービスの継続性を確認してから採用してください。
選択肢 A・C は事務処理規程(Step 1)でカバーします。選択肢 B のうちクラウド会計内蔵の証憑機能は、システム側で訂正削除履歴が残るため規程不要にもできますが、念のため備えておく方が無難です。
Step 3:紙で受け取った書類はそのまま保管
紙の請求書・領収書をスキャンして原本を破棄する「スキャナ保存」は 任意制度 です。やらないで構いません。
紙のまま保管するなら、電帳法の要件は一切かかりません。スキャナ保存をやろうとすると、解像度・タイムスタンプ・帳簿との紐付けなど厳しい要件が発生するため、紙取引が少ない事業者ほど紙保存のままが楽です。
Step 4:ダウンロード応諾の準備
検索要件免除の唯一の条件です。税務調査が来たとき、保存しているデータをすぐに渡せる状態にしておきます。
具体的には以下が満たせれば十分です。
- 保存先フォルダの場所を把握している
- USB メモリへのコピー、ZIP 圧縮、メール送付などができる
- 保存ファイルがすぐ開けるフォーマット(PDF・JPG など)
特殊なソフトや手続きは要りません。
Step 5:帳簿の保存方法を決める
仕訳帳・総勘定元帳などの帳簿は、以下のいずれかで保存します。
| 方法 | 内容 | 電帳法上の扱い |
|---|---|---|
| 会計ソフトで保存 | マネーフォワード・freee・弥生等 | 「その他電子帳簿」要件を自動充足 |
| 紙印刷で保存 | 月次・年次に印刷して綴じる | 電帳法の対象外 |
| 自作システムで保存 | Excel 等 | 「その他電子帳簿」要件を自分で確認 |
会計ソフトを使っているなら、特に何もしなくて OK です。ソフト側が要件を満たしています。紙印刷ルートも依然として有効で、電帳法そのものが適用されなくなるため、最もシンプルです。
ありがちな誤解 Q&A
Q:検索要件免除を受けるのに届出は必要?
不要です。基準期間の売上高で自動判定されます。
Q:5,000 万円を 1 年だけ超えたらどうなる?
その年は基準期間ではないため、判定には影響しません。基準期間(前々年・前々事業年度)の売上が 5,000 万円超だった年に検索要件が必要になります。
Q:紙の請求書を電子化しないと違反?
違反になりません。紙のまま保管が一番楽です。電子化したくなったら、それから検討すれば十分です。
Q:タイムスタンプは買うべき?
不要です。事務処理規程で代替できます。年間数万円〜のコストは中小事業者にとって割に合いません。
Q:Amazon・楽天の購入履歴も電子取引データ?
該当します。Web で表示・ダウンロードできる領収書や注文履歴は電子取引データに含まれます。多くの場合、サービス側で削除できない設計のため、ID・パスワードがあればいつでも参照できる状態にしておけば、改ざん防止策としても通ります。
Q:銀行明細やクレジットカード明細は?
これらも電子取引データです。クラウド会計の連携で取り込んでいる場合、データそのものが変更不可で取り込まれているため、改ざん防止策を自動的に満たします。
ただし、消費税を 原則課税 で申告している事業者は、クラウド会計の連携データだけではインボイス(適格請求書)の保存要件を満たせない盲点があります。詳しくは別記事で扱います。
今日からできる 3 つのアクション
- 国税庁の規程サンプル から Word ファイルをダウンロードし、社名・日付を記入して保存
- 電子取引データの保存先フォルダを Google Drive 等に作成(年・月でフォルダ分け)
- 直近 1 年分の電子請求書・領収書をフォルダに集約
これだけで、売上 5,000 万円以下の事業者の電帳法対応はほぼ完成します。
おわりに
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本記事は電子帳簿保存法の一般的な情報提供を目的としています。個別具体的な税務判断・会計処理については、必ず税理士・所轄税務署にご確認ください。詳細は 免責事項 をご覧ください。